ピアノ奏者、経験者にとって、何かひとつでも演奏のお仕事につながることがあれば、稼ぎながらもいい経験ができ、一石二鳥です。そのひとつに、「結婚式場のオルガン演奏」というものがあります。ピアノは練習してきたけれど、オルガンは未経験だよ、という人にとっては、一見ハードルが高いと感じるかもしれません。
ピアノとオルガンは「鍵盤楽器」という点では共通していますが、どのような違いがあるのでしょう。そして、オルガン奏者になるには、どのような技術が求められるのでしょうか。
筆者もピアノ経験はありましたが、オルガンは未経験でした。なので、最初のうちは緊張、苦労、失敗の連続でした。
なお、ここで述べる結婚式場とは主に「チャペルでの挙式」のことを指し、披露宴会場での演奏はまた別のお話ということになります。
基本的に現場にはオルガニストは1人なので、仕事で実践しながら他のオルガニストの様子を見学できる機会はなかなかありません。
そこでこの記事では、筆者が15年以上に渡り式場でオルガンを演奏して感じる、オルガニストとしてお仕事をするコツを紹介します。
もくじ
オルガンについて
式場のチャペルにはパイプオルガンが常設してあるところが多くあります。オルガンは鍵盤楽器ですが、同じく鍵盤楽器であるピアノとどのような点が違うのでしょうか。
ピアノとオルガンの共通点と違い
オルガンの歴史はピアノより古く、ヨーロッパで教会の楽器として普及していました。リコーダーのようなパイプに風を送り込み音を鳴らします。つまり音の鳴るしくみは、ピアノとは全く異なるものです。
またボタンの操作で音色が変わりますし、音の組み合わせによっては重厚感のある音も出ます。そして足にも鍵盤、音の強弱を調整するペダルがあります。
逆に、ピアノにあるダンパーペダル(右端のペダル)のような役割のものがないので、鍵盤から手を離すと、音の響きは残りません。
オルガンは「エレクトーン」に近い
ヤマハで製造・販売されている「エレクトーン」という楽器を聞いたことがあると思います。電子オルガンのことです。機能はオルガンに近いので、きっとエレクトーン経験者にとっては、オルガンの演奏はお手の物だと思います。
式場のオルガニストに求めれられること
「鍵盤楽器」ということ以外は、ピアノとオルガンには大きな違いがあることを説明しました。しかしこの違いを把握して対策すれば、ピアノ奏者でも、式場のオルガニストになれます。
そこで、オルガニストに求められる内容を紹介します。
挙式での音楽演出
式場によって、音楽を演出する楽器の編成は異なります。オルガンのみで演奏、という式場もあれば、弦楽器、管楽器、聖歌隊、それにプラスしてオルガンという組み合わせもあり、様々です。中には常設されているのがオルガンではなく、ピアノや電子ピアノ、という式場もあります。
いずれにしろ、鍵盤楽器の存在は、ほぼ必須と言えます。
式の進行のきっかけ音づくり
挙式の進行に合わせて、音楽スタートのきっかけはほとんどがオルガンとなります。
主な進行で言うと、「新郎入場」「新婦入場」「讃美歌」「指輪交換」「ヴェールアップ&キス」「退場」…などです。聖歌隊や他の楽器は、オルガンの前奏に合わせて演奏します。そういう意味では、オルガン奏者は式の進行に慣れるまで、1番気が抜けない立場と言えるかもしれません。
式中の曲の長さの調整
そして新郎新婦の動き、場面に合わせて、音楽の長さを調整する必要があります。例えば、新郎新婦入場時は、牧師の前まで到着するまでは音楽は必ず必要です。その場合、ゆっくり歩く新婦様の場合は、曲をいつもより長めに演奏する必要があるということになります。
聖歌隊や他の楽器との共演では、奏者間での楽譜は共通ですが、曲の長さを延ばす時は、オルガン奏者が後奏を長めに弾くなど、アレンジを加える必要が出てくるのです。
レギュラー曲以外の突発的な曲対応
基本的には、使われる曲は式場によって毎回決まっていますが、時々、曲変更のリクエストが来ることがあります。そういう場合は事前に知らされることがほとんどなので、ご安心ください。奏者間で共通の楽譜を準備する必要があるからでしょう。
ただし、当日、かなり稀に「進行の流れ」が変更になることはあります。通常、挙式の流れに内容が追加される、ということです。その場合は、突発的に曲の追加が必要となり、たいていはオルガニストだけでレギュラーの曲以外の曲を弾くことが求められます。
そういうこともあり、オルガニストは指定曲以外で、ソロ曲を準備しておくと安心です。
チャペルの雰囲気やシーンに対応できるよう、厳かな曲、可愛らしい曲…などいくつかパターンがあると良いでしょう。
足鍵盤について
オルガンには音程のある「足鍵盤」があります。オルガンやエレクトーン経験者にとっては、足鍵盤の操作は難しくないと思いますが、ピアノ奏者にとってはハードルが高いものです。
ゆっくりな曲であれば、その曲だけを、足元を見ながら練習すれば弾けるようになるかもしれません。
実際、今は足鍵盤は使わない会場も増えてきています。もし足鍵盤を使う必要があり、テンポが速くて、どうしても演奏に自信がなければ、手の鍵盤のみで演奏できるアレンジを事務所などに相談してみるのはいかがでしょう。それで対応可能になる場合は充分あります。
新郎新婦様にとっては一生に一度の大切な時間です。無理に足鍵盤をマスターしようとせず、確実にノーミスで弾ける安全策を取りましょう。
音を自然につなげるための奏法
オルガンにはピアノにあるダンパーペダル(右端のペダル)がないので、演奏中に音が飛躍する時は、音が途切れて聞こえてしまいます。そうなると、大音量で演奏することが多いので、とても不自然に聴こえます。
音が大きく飛躍していなくとも、和音が連続して動くところでは、音が途切れずに弾くことは、ピアノ奏者には最初は慣れない作業になるかもしれません。
もちろん、フレーズの終わりとフレーズの始まりの間であれば、一瞬音が無くなっても問題ないです。ただし、フレーズの途中で音が一瞬でも消えると目立ちます。
そこで、日頃ピアノで挙式の練習する時はもちろん、ダンパーペダルなしでの練習が必要です。
そして音が途切れて聞こえないために、「次の音を弾くまで、どこか1音だけでも音を押さえたままでいる」ということをおすすめします。
例えば、左右の手をほんの少し時間差で弾いたり、小指だけ押さえたままで次の音を弾く準備が整ったら小指もはずし次の音を弾いたり、などです。
何度か試して、感覚を掴むのが一番だと思います。それが出来れば、オルガンの弾き方は心配いりません。
なお、音の強弱は足のペダルで調整するので、表現力(音色など)はあまり問われません。正直、表現力については、ピアノの方が難しいと感じます。
曲の長さを調整するための具体的な方法
前述で、オルガニストの大切な役割で「曲の長さの調整」が必要だと述べました。最後に、その具体的な方法を紹介します。
曲を短くする必要はない
他の奏者との共演の場合、基本的には合奏なので、アドリブで短くすることは難しいです。ただし、特に入退場については、曲が長めである分には問題ありません。つまり、曲の長さを調整する上で、曲を短くすることを考える必要はないということが言えます。
曲を長めに弾く場合
楽譜通りの演奏が終わっても、まだ曲が足りない(=新郎新婦の動作が続いている)時は、オルガニストだけで演奏を続けることが必要です。自分の中で、「(楽譜の)ココに戻ろう」などと、戻る場所を決めておくと本番で焦らず弾けます。また、その時に便利なのが「コード」の活用です。
コードの活用
コードはピアノ学習者、特にクラシックを勉強している人にとっては知らなくてもいい分野かもしれません。
しかし、チャペルでのオルガン演奏においては、コードが弾けると、とっても楽です。自然なコード進行をメモしておいて、音楽が足りない時にそれを弾いておけば、ひとまず音楽は続きますから、安心です。コード弾きをするだけで、それなりに聴こえるところがオルガンのいいところだと思います。
さらに言うと、楽譜全体にコードを書いておいて、オルガンだけで簡単にメロディーと伴奏が弾けるようにしておくと安心です。
そうしておけば、たとえ本番中にイレギュラーな出来事が起きて、曲を極端に長く弾く必要ができても、焦る必要はありません。「足りない分は全てオルガニストが繋ぐ」と決めておくことで、音楽面においては、式は無事に進行するのですから。それは他の楽器にはなかなか出来ない役割だと思います。
大変な役割ではありますが、それだけなくてはならない存在だと言えます。
まとめ:ピアノ奏者が結婚式場でオルガニストになる方法
ここまで、ピアノ奏者、経験者が式場のオルガニストになる方法を説明しました。
長年この仕事を続けていると、稀に式の本番、イレギュラーなことが起きます。そういう時、最初のうちは「どうやってこの場を乗り切ろうか」ととてもヒヤヒヤしたものでした。
今では何が起きても、「曲が足りない時はオルガンに任せて。いくらでも弾くよ。」という姿勢でいれば、何も焦る必要がないことが分かりました。奏者間での打ち合わせも最小限で済みます。
そのために、コードを活用して、合奏用のアレンジ譜でもソロで弾けるようにしておきましょう。
あとはピアノのダンパーペダル(右端)がなくても、音が途切れて聞こえないような奏法に慣れることです。家ではペダルなしの練習をして、会場で少し指ならしをして、慣れましょう。
奏者の中でも重要な役割を担うオルガニスト。式中の進行の音楽は、ほぼオルガンきっかけなので、他のどの奏者よりも責任重大です。しかし、新郎新婦様の大切なシーンに貢献でき、そして経験も積めるというとてもすてきなお仕事です。
チャレンジしたいけど自信がなかった、という方はぜひこの記事を参考に前に、踏みだしてみてください。ピアノ奏者・経験者の方なら大丈夫です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。