「音感」とは音に対する感覚のことで、音の高低、音色などを聞きわける能力のことをいいます。 音感を鍛えると、音楽をやる上でとても役に立ちますし、より音楽が身近になります。
子どもの時から何年も真面目にピアノを練習してきたり、ソルフェージュのレッスンを受けたりした人にとっては、これから紹介する方法は必要のないことかもしれません。 そういう人たちは何年にも渡る日々の学習で、音感が身につく要素を自然と取り入れているからです。
しかし、そうではない人たちが、今から音感を身につけようとすると、そのための時間を確保するだけでも、とても大変です。
そこで、当記事では、大人になった今からでも音感が身につけられる方法を紹介します。 もちろん、お子さんでもOK。 ピアノの前に座る時間は最小限にし、忙しい人でも実用的に音感を身につけられる方法をお伝えします。
音感は子どもでないと身につかないのでは? と思った人もいるかもしれません。
私自身、20代後半までその1人でした。 ところがあることがきっかけで、それまでものすごく遅かったピアノの譜読みが、とてもやりやすくなったのです。 そのきっかけこそが、今回紹介する練習方法を知ったことだったのです。
ここでは手っ取り早く音感を鍛える方法を、筆者の経験をもとに紹介します。
もくじ
音感について
音感とは、音の高さを認識する能力のことを言います。 更にその認識方法によって「絶対音感」と「相対音感」に分けられます。 ここでは、音感の種類と身につけることについてのメリットを紹介します。
絶対音感と相対音感
絶対音感とは、ある音の高さを他の音と比べずに「ドレミ」で認識出来る能力のことです。幼少期に訓練しないとなかなか身につかないと言われています。ピアノの鍵盤にある「ド」の音にも楽器によって、高めの音、低めの音、など様々な高さの「ド」の音がありますが、その細かな差異を聞き分けられる特殊な能力です。
相対音感とは、基準となる音をもとに、その音がどのくらい離れているかを認識できる能力のことです。大人になってからも訓練することで、鍛えられます。この記事でいう「音感」は、主にこの「相対音感」のことを指しています。
音感を身につけることによるメリット
音感を鍛えることで、耳と頭における音の理解が出来るようになります。その訓練と指に運動を覚えさせることを組み合わせて練習すれば、楽器の習得が効果的に身につきます。具体的に、音感を鍛えると次のようなメリットがあります。
・メロディーを聴いて、すぐに楽器で再現できるようになる。
・難しい調(キー)の曲を、別の調に移調することができるようになる。
・楽器がなくても譜面を見ながら、正しいピッチでメロディーを歌えるようになる。
・聴いたコード進行をその場で分析する力が身につき、メロディーを聴きながら即興で簡単な伴奏をつけることが可能になる。
・耳コピの効率上がったり、思いついたメロディーを楽譜なしで譜面に起こすことが出来る。
・譜読みの時間が早くなる。
・楽器演奏でのミスタッチが減る。
・音楽理論が自然と理解出来るようになる。
ちなみに声楽科である友人が音感トレーニングをしばらく続けてみたところ、声楽の先生に「急に和声的になったけど、どうしたの?」と驚かれたそうです。私もその成果については予想外でした。このことから、音感を鍛えると和声感も養える、ということが言えます。
固定ド唱法と移動ド唱法
譜面の読み方には「固定ド唱法」と「移動ド唱法」があります。「固定ド」とは曲の調に関係なく、音名で譜面を読んだり、発声したりする方法のことです。一方、「移動ド」とは、調に合わせて、「ドレミ」の位置を変えて読んだり、発声したりする方法です。その場合はその調の主音を「ド」と読むことになります。
音楽大学などの入学試験では、専門楽器に加え、新曲視唱、コールユーブンゲン、コンコーネ、聴音などの試験があります。その際は主に、固定ド唱法が使われますので固定ドで練習することが一般的です。固定ドは、音の高さと音の読みが一致しているため、譜読みをする上でも適しています。
トレーニング編
ここでは実際に、音感を鍛えるための練習を紹介します。「固定ド唱法」でトレーニングします。
聴こえた1音を音名(ドレミ)で当てよう
始めに、ピアノの前に座ります。鍵盤を鳴らさずに、まず1音決めて、聞こえてくるであろう音を頭の中で想像し、声に出してみましょう。例えば「ド」の音。声に出したら、実際に鍵盤を弾いて、ピアノの「ド」と同じ音かどうか確認します。ピアノと自分の声の音が一致するまでくりかえします。できるようになったら、ドレミファソラシド全ての音で同じ作業を、ランダムに、出来るまでやりましょう。
相対音感では基準になる音は与えられるものですが、このように基準の音なしで、自分の感覚で音をイメージ出来ると、音感を鍛える手助けとなります。ちなみにこの練習は、スマホのアプリで「ピアノの鍵盤」をインストールすれば、外出先やスキマ時間でも訓練できます。ピアノの鍵盤がシンプルに表示されて、音が出るものを選びましょう。
この「1音当て」に慣れてきたら、ネットの動画やアプリでも音感トレーニング的なものがあります。練習の成果が確認できるので、試してみましょう。
音名(ドレミ)で歌えるようになろう
ここからが当記事の本題です。ここに音源と唱歌「ふるさと」のハ長調の譜面があります。下記の①から③の順番に沿って、練習を進めましょう。ここから「主音」という言葉が出てきます。その調の音階の最初の音のことで、ハ長調でいうと「ド」のことです。
①まずは音名(ドレミ)の音当てに挑戦
下の再生ボタンで音を再生して、聴こえた音を音名(ドレミ)で想像します。この時、②の譜面はまだ見ないようにします。ちなみに、音源では次の順番で弾いています。
調(キー)の主音/ド→主和音(Ⅰ度の和音)/ドミソ→ふるさとメロディ
ここでは最初に主音「ド」→「和音(ドミソ)」が流れます。その時に、その調性(ハ長調)の響きをイメージします。次に、「ふるさと」のメロディーを聴き、聴こえた音を音名(ドレミ)で、歌ってみます。最初の1小節は主音と同じ音なので「ド、ド、ド」と歌えたと思います。2小節以降は自分のイメージで、ドレミに置きかえて歌ってみましょう。
音名が思い浮かばない、または自信がない音があれば、分かる音を基準に、順番に歌うなどして、該当の音が分かるまでイメージしましょう。ピアノの鍵盤を見て、音を想像してみることもいい練習となります。
②答え合わせしよう
自分の力で出来るところまで歌ってみた後は、それが正しい音名だったのか、ピアノの音を鳴らして確認しましょう。鍵盤のアプリで、または下の譜面と照らし合わせてみるのもOKです。音名で歌えなかったところが、現時点でのあなたの苦手な「音の幅」です。その前後の音を何度も歌って、ピアノでも弾いて、音を聴いて、音の幅に慣れましょう。最初のうちは難しく感じるかもしれませんが、続けると慣れていきます。
ふるさと ハ長調(Cメジャー)
③音名(ドレミ)で何度も歌おう
次に②で行った練習を通して、自分の歌っている音名をそのまま覚えてしまいましょう。譜面を見ずに歌えるところまで、またピアノで弾けるまでくり返します。自信がない所は何度もやる、そうやって「音の幅」を頭と指に染み込ませしょう。それが音感を鍛える秘訣です。続けているうちに、音に対する感覚が身についていくことが実感できると思います。
特に③の練習を、いつでもどこでも、思いつく度にやるようにします。最初の基準の音が分からなければ、アプリの鍵盤を1音鳴らす。そして歌いたいメロディーを音名で歌う…そうすれば、どこにいても練習が出来るようになります。外にいる時は自分の声がギリギリ聞こえる程度の小声でOKです。1つの曲が迷わずに歌えるようになったら、別の曲にも挑戦しましょう。童謡や唱歌など、簡単な曲から取りくむのがおすすめです。まずはハ長調から慣れましょう。
違う調(キー)でも挑戦しよう
ハ長調に慣れたら、他の調でも練習します。ハ長調以外の調では、調号により黒鍵も登場します。黒鍵を歌う・弾くときでも音名をそのまま読むだけでOK。例えば、変ロ長調の時、歌い出しは「シ♭」ですが、「シ フラット」などと読む必要はなく、「シ、シ、シ〜」と歌いはじめてOKです。ただし、頭の中では黒鍵を弾くイメージをしっかり持つことが大切です。ピアノでも必ず弾いて、黒鍵の感覚をつかみましょう。
ふるさと
ヘ長調(Fメジャー)主音:ファ
ト長調(Gメジャー)
変ロ長調(B♭メジャー)
主音:シ♭
ニ長調(Dメジャー)主音:レ
この「ふるさと」の続き(後半)も、ぜひ同じように練習してみましょう。
なお、調は長調全部で12つあります。ここでは全ては紹介しませんが、ぜひ他の調でも練習してみましょう。譜面がなくても、ピアノの鍵盤を探って弾けば、音から答えは導き出せますし、その作業こそが、音感を鍛えることに直結します。
自分の課題曲を作って攻略しまくろう
ここまで紹介したことは音感を鍛える方法のほんの入り口のレベルです。やってみて出来なければ、出来るまでやる。簡単に感じてきたら、自分の中で課題曲を新しく作って、また調のレベルも上げながら、少しずつレベルアップを目指しましょう。
そしていつか「知ってる曲ならメロディーを全ての調で歌える・ピアノで弾ける」と言えるくらいまでになれば、かなり自由にピアノが弾けるようになっているはずです。この練習はスキマ時間にも出来るので、忙しい人でも続けることによって、十分成果は期待出来ます。
まとめ:手っ取り早く音感を鍛えるトレーニング
ここまで、実用的に音感を鍛えるトレーニングを紹介しました。
本来音感というのは、なかなか自然には身につく力ではありません。筆者の場合は小学校時代、ピアノを習っていたのに真面目に練習をしていませんでした。そのため、音感が身につけられないまま音楽の道に進み、とても苦労しました。ちなみに言うと、「音感がない」ということにすら気がついてなかったのです。大人になって今回の方法をたまたま知り、音楽がやっと身近に感じられるようになりました。それでも音楽を仕事にしている人と比べると音楽の技術は、まだまだかもしれません。
でも大切なのは、他人との比較ではなく、過去の自分と比較してどう変化したかということだと思います。以前より、譜読みがやりやすくなったり、ピアノのミスタッチが減ったりすれば、それは確実に実力の底上げが出来ているということになります。この方向性で練習を重ねれば重ねるだけ、あなたの音感もずっと伸び続けます。これまでよりずっと、音楽が身近なものになることでしょう。何か少しでも、読者さんのピアノ学習や音楽活動に参考になることがあれば幸いです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。