ピアノ学習において、少し工夫することで弾きやすくなることって意外にあるものです。例えば、脱力すること、重みのかけ方、指番号など…手首の使い方もそのひとつなんです。「手首を自由自在に操れるかということは、ピアノ技術の大きな要素」…そのように言う一流ピアニストもいるほどです。
ここではなぜ手首の使い方がピアノ演奏で大切なのか、その理由と理想的な手首の使い方について説明します。
もくじ
ピアノを弾く上で、手首の使い方が大切な理由
手首はクッションのように、柔軟に使えるようにしておくのが理想です。いいフォームにすることで、演奏がよい方向に変化することさえあります。その理由を説明します。
手の構造
ピアノを打鍵するのはもちろん「指」ですが、動いている付け根はどこかというと、5本の指の付け根…ではなく、実は手のひらから伸びており、その内部の骨は手首の関節から分かれています。つまり、ピアノを弾くという動作は、手の甲に隠れている部分から動かしているのです。
こういうことです。↓
このように、実は指を動かしているのは、手首付近なのです。意外ですよね。
自然な形が理想
ピアノを弾く上で、手首の理想の形とは「自然な形」です。自然な形とは、一体どういうことを言うのでしょうか?
下の絵は、自然に立っている男性の絵です。手首はどうなっていますか?程よくまっすぐに伸びています。つまり、「く」や「へ」の字にはなっていませんね。このように、重力に任せて下ろした腕の状態が、人間の自然な手の形といえるわけです。
この手首の状態のまま、力を入れずに手をピアノに乗せてみましょう。それが、ピアノを弾く理想の姿なのです(その時、イスの高さはそのピアノにふさわしい高さである必要があります)。
これを元に、正しい手首の位置をみてみましょう。
正しい手首の位置
正しい手首の位置とは、下の写真のように、ひじと手首が水平、またはややひじが高い位置にあることです。
<正しい手首のフォーム>
ご覧のように、手首そのものは自然に、程よく伸びていることが分かります。これが「へ」の字のようになると、それは人間の自然な状態ではないので、手首に無理を感じることになりますし、無駄な力が入ったり、手首が固くなったりします。
手首に力が入ると?
ピアノを弾く上では、とにかくリラックスした状態が何よりも理想です。
手首に力が入ってしまうと、指を動かすコントロールが自由にできなくなります。また、音の表情も思い通りにつけられませんし、手を痛める原因になることもあります。
手首を柔軟に使い、余分な力を逃したりすることで、豊かな響きを作ることにつながりますし、手を痛めにくくもなります。
なぜ手首が上がったり下がったりするとだめ?
ピアノを始めたばかりの人は、手首を上げた状態(「へ」の字)、または下げた状態(逆の「へ」の字)で弾いてしまうことがよくあります。
これは手首を固めて使ってしまうことや、姿勢が悪いことなどが一つの要因となっていると考えられます。
このフォームのまま弾いてしまうと、様々な弊害が起きます。例えば、指が立てられずに打鍵する、スラーが繋がらない、テンポの速い曲が弾けない、脱力ができずに疲れやすくなる、などです。
下の写真は手首が「へ」の字になっています。
指先に力がスムーズに伝わるような正しいフォームを初期の段階で身につける必要があります。
手首を上下に動かすのもだめ?
特に幼少期のお子さんなど、力が足りずに、打鍵するたびに手首を上下に振って弾く人もいます。しかし、そのような弾き方では、1音ずつ音が途切れてしまい、レガートには弾けません。
本来、ピアノの演奏は、指の独立した上下運動によって行うものです。打鍵するのに力が足りないという理由で手首を上下させる弾き方は正しくありません。
ただし状況によっては、手首をあえて使って音に表情をつけることも大切な役割です。正しい手首の使い方がマスターできた後、または表現を深める段階になった時、そういう時は状況によって、手首を使ってもよいでしょう。
手首の動きを柔軟にするために
手首の動きを自由にするための方法を、いくつか紹介します。
正しい姿勢でひく
猫背になると、腕の位置が下がるので、鍵盤に手を乗せるとピアノに近すぎて手首が下がります。また、逆に胸を張りすぎると余計なところに力が入る原因となってしまいます。正しい姿勢を知ることで、解消できることがありす。
下のように最適なイスの高さで、正しい姿勢で弾くことに慣れましょう。
また人によって、最適なイスの高さは異なります。高さが合っていないと、手首が上がったり、下がったりする原因になってしまいます。ぜひ高さの調節できるイスを使いましょう。
↓イスの高さが合っていないと、こうなります。
なお、小さいお子さんは、足台が必要です。足台がないと、重心が安定せず、前のめりになってしまうからです。
腕や手の力をぬく
練習しながら手首が固くなってきたと感じたら、一度、弾くのをやめて、手を下へ伸ばしてぶらぶらと揺らしながら、重力に任せてみましょう。リラックスして、力が程よく抜けたことが確認できたら、そのままの「ゆるんだ状態」で、鍵盤に手を置きます。
スラーの練習をする
手首を柔らかくするために、スラーの練習をしましょう。スラーとは、楽譜に用いられる演奏記号のひとつで、音と音を滑らかにつなげて(=レガートに)演奏することを表します。
スラーの弾き方としては、次の音を弾く瞬間まで、鍵盤を押さえたままにして、次の音を弾く準備をし、なめらかに次の音を打鍵します。その移動の時のなめらかさは手首、ひじなどを上手に使うことで、実現します。
手首の平行を保つための練習をする
手首が不安定になってしまうのは、物理的な問題もあります。黒鍵と白鍵の高さの違い、また5本の指の長さの違い、などです。そのために、鍵盤の感覚に慣れることも大切です。
鍵盤は88鍵あり、指は10本です。例えば、1オクターブを全て片手で弾こうとすると、途中で指が足りなくなるため、指をスムーズに入れ替える動きが必要となります。
指を入れ替える動作の難しさは1の指を2、3の下へ送り込むこと(=指くぐり)と、1の指を他の指が越えていくところ(=指こえ)にあります。
ちなみに、送りこんだ1の指を打鍵したら、すぐに手の甲は次のポジションに移動するようにします。逆に、1の指を他の指が超えて弾く場合は、この逆の動作を行うことになります。
試しに右手で、ハ長調のスケールの練習(簡易版)を練習してみましょう。
この時に大切なのは、手首と腕の横の動き、つまり水平移動をできるだけスムーズにすることです。指よりもむしろ手首が先導して引っ張るイメージで練習しましょう。この時も、正しい姿勢、正しい手首のフォーム、手首をゆるめた状態でやることが大切です。
実際に弾く前に、ピアノの鍵盤の上で、鍵盤から少し手を浮かせた状態で、アイロンがけをするように、手を左右に水平に動かしてみる練習をやると、イメージがわきやすくなります。
中級者以上はスケールの練習をする
前述の「指こえ」「指くぐり」の練習として、中級者以上は、スケール練習をすることもおすすめです。
手首が動いてしまうポイントは「指こえ/指くぐり」と、他の調であれば、「黒鍵と白鍵の境目」にあります。弾きづらいところでは、手首が上下してしまう動きを最小限にするように気をつけましょう。
スケールの練習についての記事はこちら↓
ピアノでスケール(音階)を練習しよう。
まとめ:ピアノは手首の使い方が大事
ここまで、ピアノを弾く上で、手首の使い方が大切な理由を説明しました。
指が動いている本当の意味での付け根というのは、実「手首の辺り」なのです。つまり、指をコントロールしているのは手首の使い方と言っても過言ではありません。だからこそ、手首の正しいフォームと使い方を身につけることが、とっても大切なのです。
正しい方法を知ると、ピアノが弾きやすくなったり、上達のスピードがアップします。曲の難易度が上がっても大丈夫。ピアノを学習し始めた最初のうちに体に覚え込ませれば、あとが楽です。
皆さんも、手首の使い方の大切さを知って、さらに自由にピアノを楽しめるといいですね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。