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作曲家の豆知識

リストも愛したエラールのピアノ

ピアノが誕生して300年以上。多くの楽器製作者の手により、長い歳月をかけて、ピアノは現代のピアノとなりました。

その中で、現代のグランドピアノにも採用されている機能を発明した、エラールという楽器製作者がいました。

この記事では、有名な作曲家たちが愛したピアノ、エラールのピアノについて紹介します。

ピアノの誕生

初めてピアノの製作が完成したのは1709年、イタリアの楽器製作者クリストフォリによってでした。それから数百年の歳月をかけて「アクション」が改良され、現代のピアノに近づいていきます。

「アクション」とは、簡単に言うと、打鍵してから音が鳴るしくみのこと。下の図はピアノの内部を横から見たものです。

①鍵盤を押すと連動されたハンマーが動き ②弦を下から叩き上げ ③音が鳴る、というメカニズムとなっています。

エラールによるアクションの改良

それまでのアクションは、鍵盤を押すとハンマーが上がって弦を打ち、鍵盤が一番下に降りた後に次の打鍵に備えるのが普通でした。つまり、速い奏法で演奏するには限界があったのです。

そんな中、19世紀初めから、長年の歳月をかけて、エラール(1752〜1831)が「ダブル・エスケープメント」と呼ばれる新しいアクションを考案します。

それは、イギリス式(突き上げ式)を改良したもので、打鍵した鍵盤が上がりきる前に、次の音が出せるしくみです。それによって、トリルや速い打鍵が可能になり、よりピアノ表現の多彩さを表現できるようになりました。

それは当時のピアノとしては、とても画期的なものでした。

リストの名曲はエラールのおかげ?

ピアニストであり作曲家のフランツ・リスト(1811〜1886)が、ある大きな演奏会でエラールのピアノを弾き、大成功を収めました。

エラールのピアノが、リストの速くて力強い演奏を見事に実現したのです。エラールのピアノでなければ、リストの技巧を駆使する名曲の数々は、おそらく生まれなかったでしょう。

リストは当時、大変な人気でしたが、彼の成功と共にエラールの名前もヨーロッパ中に広まり、世界有数のメーカーへとなりました。そうやってエラールのピアノはリストをはじめ、ヨーロッパで活躍していたピアニストたちに愛用されるようになったのです。

エラールによる現代アクションの確立

エラールの活躍により、世界のピアノのテクニックも飛躍的に拡大します。

徐々に他のピアノメーカーも、エラールが改良したアクションのしくみに移行するようになりました。尚、現在の一般的なグランドピアノのアクションは、この機能が受け継がれています

その後、エラールは経営難により、第二次世界大戦後にプレイエルと合併し、残念ながらエラール社の名前は消えてしまいました。

まとめ:リストも愛したエラールのピアノ

ここまで作曲家たちが愛したエラールのピアノについて説明しました。

ピアノが完成されて以降、さまざまな改良が重ねられてきました。中でも、エラールの改良した「ダブル・エスケープメント」というアクションは当時、とても画期的なものでした。リストの超絶技巧の名曲の数々も、エラールのアクションがなければ、生み出されなかったかもしれないのです。

現在でも、一般的なグランドピアノのアクションにエラールのアクション機能が採用されています。残念ながら、今ではエラール社の名前は消えてしまいましたが、作曲家や多くのピアニストにとって、大きな影響を与えたピアノでした。

ピアノは現在も改良が重ねられている楽器。これから先、一体どんなピアノが登場していくのでしょうか。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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ピアノの詩人ショパンの言葉〜音楽とは歌〜

多くの人々が時代を超えて、ショパンのピアノ曲に魅了されてきました。

そのメロディーの多くは、甘美で儚く美しい。彼がそのような魅力的なメロディーを作れた理由のひとつとして、音楽を「歌」だと捉えていたから、ということが関係しているようです。

この記事では、ショパンがいかに「歌」にこだわっていたかということを取り上げ、ショパンの音楽への真髄にほんの少し歩みよってみようと思います。

ショパンは「ピアノの詩人」

フレデリック・フランソワ・ショパン(1810〜1849)はポーランド出身の、前期ロマン派音楽を代表する作曲家でありピアニストです。意外にも、繊細な人柄で大勢の前での演奏などは苦手だったといいます。

作品の多くは、ピアノ独奏曲がほとんどでした。そのメロディーは美しいだけでなく、情景的、叙情的で「詩的」。そのため、彼を表すのに「ピアノの詩人」が代名詞となっていることは有名です。

ところで、ショパンの「ピアノ協奏曲」を聴いたことあるでしょうか?聴くたびに胸をキューっと掴まれるような切ない気持ちになり、「クラシックっていいなぁ」と心の底から思わせてくれるほど美しい曲です。

一般的に「ピアノ協奏曲」というは、ピアノとオーケストラ、それぞれの見せ所があるものです。

ところがショパンのピアノ協奏曲の場合、オーケストラにメロディーを譲ることはほとんどなく、完全に「ピアノが主役」という印象を受けます。それほどまでに、ショパンは音楽的なメッセージを、どの楽器よりも「ピアノ」を通して伝えたかったのでは?筆者は個人的にそう思います。

1番が特に有名ですが、2番もステキです。2番の2楽章はショパンが19才で、初恋の時に作曲したものだそうですよ。どちらもとってもおすすめなので、聴いたことない方はぜひ聴いてみてください。

ショパンの音楽の源は「歌」だった

ショパンは「音楽の源は歌」と考えていたといいます。彼の場合、たまたまそれを「ピアノ」という楽器を使って、指を使って表現しているだけだったということです。

ピアノを上手に弾くには、歌うことが大切、という考えの下、弟子たちを実際に歌のレッスンに通わせていました。ピアノは「(歌のような)レガート」が大切と感じており、それを表現させるためでした。

ピアノの楽器の特性

ショパンもこだわる「ピアノで歌うように弾く」ということ。それが、実はとても難しいことなのですが、その理由について説明します。

弦楽器は歌うように弾けるが・・・

バイオリンやチェロのような「弦楽器」は楽器の特性上、音量を減らさずに好きなだけ長く鳴らし続けることが可能です。それどころか、途中で音量を増やすことだってできます。

また人の声のように、曖昧な音を表現することも可能です。例えば「ド」と「♯ド」の中間のように、「音名では表せないような音」のことです。

一方ピアノは、鳴らした音は必ず減衰していく楽器。そして、音名で表せないような曖昧な音は表現できません。つまり、レガート奏法がとても難しく、人の声のような曖昧な音を表現することが難しい楽器なのです。

音をレガートにつなげたり、声楽のように自然な呼吸で「歌う」こと。音楽にとっては単純なことかもしれませんが、ピアノしか経験したことない人にとっては、ピアノでそれを表現することは実はとっても難しいことです。それは今の時代でも、多くのピアノ学習者にとって課題と言えます。

ピアノがそういう特性だからこそ、ショパンは歌のような表現へのこだわりがあったのでしょうね。

あるバイオリニストの音楽への考え

筆者が親しくしているあるバイオリニストは、幼い頃から英才教育を受けており、とても音楽的で情熱的な演奏をします。

そんな彼女がある時、言いました。

「私は演奏する時、楽器を弾くという感覚よりも、『どんな歌声でどんな風に歌いたいか』。そのイメージをバイオリンで表現している。」

これはまさにショパンの言う「音楽とは歌」という考えと同じ。筆者は、その彼女の言葉によって、初めてその考えに触れ、目からウロコでした。当時はそれでも尚、「弦楽器だからそれが出来るんだよね〜。ピアノでは無理だわ。」と思っており・・・。

それから随分後になり、ショパンも同じ考えだと知ったわけですが、この考えは音楽全てに共通して言えることだとあらためて感じるようになりました。楽器の垣根は関係ないということですね。勉強になります。

まとめ:ピアノの詩人ショパンの言葉〜音楽とは歌〜

ここまで、ショパンが人々の心を惹きつけるメロディーを作り上げた理由のひとつとして、いかに「歌」にこだわっていたかということについて説明しました。

ショパンの言うように「音楽とは歌」。楽器の特性上、ピアノでメロディーを歌のようにレガートで弾くことは難しいものです。彼はそれを知っていたからなおさら、指で歌うように弾くことの大切さを感じ、こだわっていたのでしょう。

それは筆者も含め、多くのピアノ学習者の永遠の課題のようなものです。

時代を超えて愛されるショパンの作品の数々。今後は、彼の音楽に対する想いを感じながら触れてみてはいかかでしょうか。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。