気軽にピアノを始めたけれど、なかなか上達しなくて諦めようと思っている人、むかし習っていたピアノを再開したけれど、どうすれば早く上達するのか分からない人…多くのピアノ学習者が抱える悩みだと思います。何時間も無理に退屈な練習を続けても、ピアノは上手くなりません。
日頃から、効果的な練習ができれば、歳を重ねてもずっと、ピアノを弾く楽しみを持ち続けられると思います。この記事では、ピアノの上達方法を、時間の使い方と練習方法という2つの面から、紹介します。

ピアノ上達のための、時間の使い方
ピアノは楽器の王様と言われ、メロディー、和声、リズム、バス、など沢山の役割をひとつの楽器で表現できます。その分、左右それぞれ違う動きをしますし、和音やリズムなどが複雑になり、演奏に求められる要素は他の楽器以上に多いものです。よって、「こんな曲弾きたい」という思いを叶えるまでに、多くの練習過程・時間が必要となります。誰にとっても、時間は有限です。いかに短時間で上手になるか、そこを追求することがピアノ上達への鍵となります。
ここでは、練習時間を有意義に過ごすための方法を紹介します。
ピアノを弾く目的・目標をはっきりさせる

ピアノは基本的に1人で演奏する、孤独な楽器です。練習する目的・目標がはっきりしていないと、どうしても練習には身が入らなくなるのは自然なことです。「ピアノが弾けるようになりたい」という漠然とした目標だけでは、日々の練習のモチベーションを保ち続けることは難しいと思います。
もしはっきりとした目的・目標がない人は、自分だけの期限付きの目標を作ってみましょう。「○月までにこの曲を、暗譜で弾けるようになる」「今年はこの4曲をマスターする」などです。できれば、誰かに聴かせるつもりで設定してみましょう。身近な人に聴いてもらう、インターネットに動画を投稿する、など人に聴いてもらうことを前提に目標を設定します。そうすることで、緊張感が生まれ、自分だけで完結するよりは、意欲がわきやすくなります。
次に、目標が定まったらゴールまでの計画を細分化して計画しましょう。最終的には「今日はこの1段は完璧に弾けるようにする」など、1日の練習計画を具体的に立てるところまでやります。練習しやすい区切りごとに、自分だけの「練習番号」をつけて取りくむこともオススメです。
練習の習慣を定着させる

目標を立てることが出来ても、続けなければ意味がありません。練習の習慣を身につけましょう。それが身についている人とそうでない人は、数年後には確実に差が出てきます。
お子さんの場合は、親から練習するよう言われ、嫌々でもピアノに向かうことで、ピアノに向かう習慣ができている子もいます。一方、大人の学習者は、自分で練習時間を管理する必要があります。自分の意思で始めたことなので、比較的楽しんでピアノに取りくめるかもしれません。しかし、現実には仕事や家事で日常忙しく、なかなか毎日、一定時間ピアノに向うのは難しい人も多いのではないでしょうか。その場合、週に数回でも、週末だけでもOKです。「この曜日のこの時間は練習する」など、自分の予定の中にピアノの練習を組みこみましょう。続けることが大切!
ちなみに筆者の場合、小学校時代はピアノの練習が大嫌いだったので、親から何度言われても練習はしませんでした。それでも毎週1回、ピアノ教室で30分のレッスンがあります。たとえ週1回でも、ピアノ教室で弾くことが習慣となっていたわけです。それによって、毎年発表会には、暗譜をして弾いていました。
このようにたとえ週1回でも、弾くことをやめない限り、ピアノは上達できるものです。ぜひ無理のない方法で、練習を習慣化させましょう。
練習中は集中する

せっかくピアノに向かっているのに、違うことを考えてしまったり、スマホを触ってしまったりすると、あっという間に時間は過ぎてしまいます。
そうならないために、練習するごとに毎回、練習計画・目標を立てましょう。5分、10分など細かい単位であればあるほど、集中できます。短い時間で設定すれば、すぐに終わってしまうので、もたもたしてられません。例えば、練習時間30分ある場合でも「5分間でこの1段を譜よみを終わらせる」「5分間でこの苦手な2小節を完璧にさらう」など細かく設定することがコツです。
またメトロノームでの練習は、安定したテンポを身につけるために、とても大切ですし、集中するにも、効果的です。もし持っていなければ、スマホのアプリでインストールして、活用しましょう。
ピアノの練習時間、理想は?
よく「ピアノは毎日どのくらい練習すればいいですか」という質問を聞きます。ピアノを練習する目的は人それぞれ違うもの。経験や実力も違うため、当然、必要な練習時間は違います。
例えば、1曲を1年間かけて仕上げるのであれば、1週間で30分でもいいでしょうし、1曲を一週間で仕上げるのであれば、曲の難易度にもよりますが、毎日5時間以上練習が必要になるかもしれません。
また「曲を完成させる」と一言で言っても、求められる完成度は演奏する場所によっても違ってきます。「ただ弾けるようになればいい」、「身近な人に聴いてもらいたい」、「動画をアップしたい」、「複数人数の前で暗譜で弾きたい」、「大きなステージの上で弾く機会がある」など、その内容によって曲の深め方も様々です。
自分が1曲を仕上げるまでに、どのくらいの時間、期間、練習量が必要なのか、ということを目安として知っておくと、ゴール設定に役に立ちます。また集中力が続く時間は何分くらいで、いつ頃の時間帯か、など知ることも参考になります。それらによってあなた自身の理想の練習時間を決めるといいと思います。
時間の濃度を上げて、少しでも短期間で、曲の完成に近づけましょう。
意欲によって、練習時間を変えてもOK

ピアノを弾きたい願望がある人にとって一番避けたいのは、「いつの間にかピアノを弾かなくなっていた」となることです。そうならないためにも、自分にとって、練習へのハードルは低めに設定しましょう。「今日は5分だけ」という短い時間でもOK。自分にとって継続できる方法を、最優先させましょう。僅かな練習でも1週間、1か月、半年、1年…と継続していけば必ず上達するものです。
ただ、その日の気持ち・疲れ具合により、練習への意欲は日によって異なります。もし、疲れてやる気が出ないな、という時。それでもまずピアノの前に座わってみましょう。行動を起こすことで、意外と練習できてしまうことがあります。
それでも、どうしても集中できない時は、無理しないで休みましょう。大切なことはたとえ毎日でなくても、練習を継続させることです。無理することで、続かなくなってしまえば、意味がありません。また次の日、チャレンジすればいいのです。
ピアノ上達のための練習方法とは
これまで述べたように、ピアノ上達には練習時間の密度を上げることが大切ですが、同時に練習方法にも工夫が必要です。そうすることで、同じ時間をかけても、より早く曲を仕上げることが出来るようになります。
ここでは、効果的な練習方法をいくつかに分けて紹介します。
新しい曲に取りくむ時は

新しい曲を弾く時には、譜よみをします。「譜よみ」というのは、初めて弾く曲の楽譜を正確なリズム・音符である程度、一通り通して弾けるようになることです。
弾きたい曲に対して譜よみの力が足りないうちは、1曲が形になるまでどうしても時間がかかります。それにより曲の楽しさを感じる前に、練習が苦痛に感じてしまうことはよくあることです。逆を言えば、譜よみのレベルが上がれば、苦痛に感じる時間も減っていきます。
ただし初心者であっても、ゆっくりと正しく譜よみを進めて行けば、確実に弾けるようになります。肝心なのは、正確に、弾ける速さでゆっくりと、片手ずつ、楽譜を読んでいくことです。少しでも自分の弾ける速さより速く弾いてしまうと、止まってしまい、余計に時間がかかってしまいます。
そうやって確実に弾けるようになれば、その後、テンポを速くすることはそれほど大変ではありません。ここはぐっと我慢して、「ゆっくりで確実に弾く回数」を増やしましょう。正確にくり返すことで、その動きを脳と指が覚えてくれます。その成功体験を数こなすことで、譜よみの力・指のテクニックも少しずつ上達していきます。
ここで大切なことがもうひとつあります。譜よみをする段階で、音楽的な曲想をつけるようにしましょう。譜面どおり正しく弾くことだけでも大変かもしれませんが、それだけでは「音楽」とは言えません。その曲をどう表現するのかということをゆっくり・片手ずつの行程でこそ心がけましょう。音を出すときは常にいい音で弾く、それを心がけることにより、音楽的に仕上がるまでの時間が少なくてすむようになります。
正しい指づかいで練習する

楽譜には、作曲者や楽譜編集者がお勧めする指番号が書いてあります。もし弾きにくい場合は、弾きやすい指づかいを、譜よみの段階で決めてしまいましょう。練習する度に違う指で弾いていては、脳と指は混乱し、新曲を習得するのに時間がかかってしまいます。弾きこむうちに弾きにくいと感じることもあります。その時は気付いた時に変えればOKです。
メトロノームを使う

弾けるようになってきたら、メトロノームに合わせて弾いてみましょう。速さの感覚が客観的に身につきますし、安定感が出てきます。また、既に述べたように、集中するにもいい方法です。
少し遅いかな、と感じるテンポで、確実に合わせることが大切です。それが出来るようになったら、少しずつテンポを上げて(速くして)いきます。遅めのテンポで確実に弾けなければ、速く弾いても上手くは弾けません。もし少しでもミスするようであれば、更にテンポを下げ(遅くし)、やり直しましょう。場合によっては、ミスしたところをピックアップして部分練習し、仕上げていきます。最終的に理想のテンポに近づくまで続けましょう。
楽譜以外の情報も知る
新しい曲に取りくむ上で、その作曲家の人生や作曲された時代背景を知ることもとても大切です。またプロのピアニストの音源を参考にすると曲に対するイメージも湧きやすくなります。ピアノ学習は、楽譜を正しく読みとることが基本ですが、それ以外の情報も参考にすると、音楽的な表現をする上でとても役に立ちます。
練習方法の見直しをする

効率のよい練習が出来ないと、なかなか曲が仕上がらず、途中で諦めることになってしまいます。上手く弾けない箇所がある場合、「ただ練習の回数が足りていない」のか、それとも「練習の質が悪い」のか、それを見極め、必要に応じてやり方を見直す必要があります。
では質の練習・悪い練習とはどのようなものでしょうか?
質の悪い練習とは
・何となく練習している。
・途中でつまづいてもそのまま先に進む。
・完成度が低い段階で、通してばかり弾く。
・練習する度に、違う指を使っている。
つまり、次のように意識して練習しましょう
↓
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質のよい練習とは
・毎回、練習計画を立て、時間を細分化し、目的をもって練習する。
・嫌いな所・つまづいた所こそ、他よりも時間をかけてくり返し練習する。
・完成度が低いうちは、せまい範囲をくり返し練習する。
・毎回、同じ指づかいで練習する。
自分の演奏を録音する

客観的に自分の演奏を聴くというのは、難しいものです。ある程度、曲が仕上がってきたら、ぜひ自分の演奏を録音・録画しましょう。音そのものに集中したい時は録音でもいいですし、録画であれば、視覚的なことにも気がつくことが出来ます。
自覚はないのに、意外と身体全体にが力んでいたり、弾き方が雑になっていたり、と沢山の発見があります。自分の弾きたい表現が出来ているか、厳しめに確認することで、今後の課題が見つかります。このように自分の演奏を客観的に聴くことは、音楽的な上達への、もっとも効果的な方法のひとつと言えます。
さらに上達を目指すには
ピアノ学習をもう少し頑張れそうな方に、さらに上達のヒントになる内容を紹介します。
音感を身につける
「音感」とは音に対する感覚のことです。音の高低、音色などを聴き分ける力を言います。
ピアノという楽器は何も考えずに鍵盤を押さえても、必ず何かしらの音が鳴ります。そういう意味では他の楽器に比べると、初心者でも挑戦しやすい楽器です。
一方、一人で「メロディー/伴奏(和声)/リズム」など沢山の要素を表現することが必要であるため、他の楽器よりも大変な面があります。そこで音感が身につくと、譜よみの手助けになりますし、上達への近道に繋がります。中でも音の高低を聴きとる力は、ピアノ上達にとても大切です。ソルフェージュなどのレッスンを受けて、集中的に音感の強化をする人もいます。ピアノを長く続けていれば、あるレベルの音感までは身につきますが、個人差はあります。次の練習も音感が身につく、ひとつの方法です。
音階(スケール)とアルペジオを練習する

音階とは、1オクターブ間の音をある規則に沿って順番に並べた音のことを言います。アルペジオとは、和音を構成する音を一音ずつ低い方、または高い方から順番に弾いていく奏法のことです。
多くの曲は、音階、和声、アルペジオ、オクターブの組み合わせで出来ています。音階をアルペジオをマスターしておくと、弾きたいと思う曲に出合った時にとても役に立ちます。またこの基礎的な技術は譜よみや初見にもプラスとなります。初見とは楽譜を見てその場で弾くことです。
そこで、ハノンの『ピアノ教本』を使い、全ての調性の音階とアルペジオを弾けるようになることをお勧めします。全ての調が難しければ、最初のうちは♯(シャープ)や♭(フラット)が2つずつくらいの調までをまず弾けるようになりましょう。この練習は時間をかけてでもマスターする価値があります。調の感覚や音感が身につき、ピアノがとっても身近になりますよ。
まとめ:効率よくピアノを練習する方法

ここまで、効率よくピアノを練習する方法を紹介しました。まとめると次のようになります。
練習時間の使い方
・ピアノを弾く目的・目標を作り、練習に対するモチベーションを上げる。
・毎日でなくてもいい。とにかく練習を習慣化させる。
・練習時間は集中するために、時間を細分化した計画を立てる。メトロノームを使うのもよい方法。
効果的な練習とは
・新しい曲に取りくむ時は、片手ずつ、ゆっくりと、譜よみをする。この時、音楽的な曲想をつけながら、いい音で弾くことを心がける。
・正しい指づかいで練習する。
・楽譜以外の情報(曲の背景を知り、音源を聴くなど)も利用して、演奏に役に立てる。
・自分の音を録音して、課題を見つけ、さらに音楽的な上達を目指す。
本来、ピアノを弾くことは楽しいこと、素敵なことであるはずです。しかし、効率の悪い練習をしてしまうと完成までに時間がかかり、挫折にもつながってしまいます。そうならないためにも、ここで紹介した中から、自分なりの練習方法を見つけ、工夫し、より短時間で上達を目指して欲しいと思います。
そしてこれを読んでくださっている皆さんが、これからも楽しいピアノライフを送れますように。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。